1996年から2002年5月までの間
hirokoとクリスはアバディーンに
住んでいた。
その後マッセルバラに移り住むまで、エジンバラの賃貸フラットで
それなりに生活した。
ここではエジンバラでのエッセイを載せました。


2002年を振り返って
ウンコの街

雨のキッチン

凍らない冷凍庫と凍りすぎる冷蔵庫
ワールドカップあれこれ

引越しドタバタ劇
君の友達




2002年を振り返って

HAPPY NEW YEAR!
今年もよい年でありますように!
・・・と毎年願っている。

2002年の出だしは大好調だった。
何せ夢のCSN&Yのコンサートを見にアメリカまで飛んで行く予定だったからである。
CSN&Yはhirokoにとっては死ぬまでに一度は見たかったコンサートだった。
1月2月はこのことばかりで頭が1杯で他のことは一切入ってこなかった。
3月のボストン。hirokoには3度目のボストンだった。
コンサートはまさにGREAT!の連発で、生きていて本当によかった!と痛切に感じた一時だった。
コンサートの終了後、何もかもが一挙に空虚になった脱力感を感じながら・・・・

3月の末、思いがけないニュースが二人を襲った。
兼ねてから転勤願いを出していたクリス君のロイヤルメールからの通知だった。
だが、行き先がエジンバラということでhirokoは大きく落胆した。
二人ともグラスゴーを切望していたからである。
だが、ブーたれてはいられない。
引越しが決定的なものになってから毎日が大嵐だった。
アバディーンのアパートを売らねばならない。
引越しの梱包、職場の皆との別れ・・・・やらねばならないことが山積みでじっくり落ち着いて考えているなどという心の余裕を無くしていた。
5月ホリデイ専用のアパートに2週間滞在し、荷物は大型ストーレッジに月極で預かって貰いながら、仮宿を捜し無事に入居。
晴れてエジンバラ市民の一員となった。
この間にこれまた嵐のようにニール・ヤングがロンドンへやってきたので、DRニール君を伴ってロンドンでニールに酔いしれた。
ここまでがまるで台風のように過ぎていった。

ワールドカップが始まり、熱狂する。
これが終わったあたりからhirokoはどうも鬱の世界へ落ちていった。
引越し鬱病というものらしい。
まさかあたしがこんなアホなもんになるとは思ってもみなかった。
とにかくアバディーンが恋しくて恋しくて、友達や職場のみんなに会いたい、帰りたい。とクリス君を困らせる毎日が続いたのだ。
hirokoとて長年生きてきて、引越しは何度も体験してきたはずである。
だが、よくよく考えてみると日本に居た頃の引越しといっても、近畿圏から出たことがない。
しかるに日本で引越し鬱病というものに対して無知に近い存在だった訳である。
アバディーンからエジンバラ・・・・
日本でたとえると、大阪から東京へ・・・ってな感覚だろう。
首都なんだから人が多くて当たり前、街が汚くて当たり前のことなのに・・・・
日によっては空気が汚い、人が多すぎる、街が汚すぎるといっては外に出ることが出来なくなってしまった。
完璧に情緒不安定状態に陥った。
更年期障害を疑ったが、ドクターを尋ねて血液検査までしてもらったが、答えはただのストレスということで鼻先であしらわれる。

アバディーンのフラットがなかなか売れず、おまけに9月に予定をしていた里帰りもパァー。
アバディーンの家が売れないままで、こちらの家賃とアバディーンの住宅ローンの二重支払い、おまけに売れない以上はアバディーンの市民税までかかってきた。
仕事を探そうともしたが、仮宿生活している為に売れたら、ここを出る準備にかからねばならない為に、本腰を入れることも出来ない。
生活は困窮する。
何事にも身が入らない浮いた感じの毎日で、躁と鬱を繰り返す。
一体どうしちゃったんだ?毎日がこんな調子だったので、かなり疲れた。
待つことが嫌いなhirokoに待つだけの日々が延々と続く。

ようやく10月にOFFERが入り、11月になって家が売れた。
もうこんなところに長居は無用ってなもんで、即家探しに突入した。
エジンバラのプロパティー・マーケットはまさにクレイジーだ。
オファー・オーバーで金額が書かれていても実際20%〜30%を上乗せしないといけない。
全くあほらしいシステムである。
エジンバラ市内のOneベッドルームの値段は他所では2ベッドルームが楽々購入できる。
パーラメントのお陰でプロパティー市場がここ数年跳ね上がっている。
hirokoとくリスは毎日インターネットで新しい物件の登場を待ちながら、オファー物件と併行してFIXEDプライスという競りのない決まった価格の物件に注目していた。
環境調査も開始した。
たとえ、物件が素晴らしく中に入れば御殿のような内装であっても、その回りの環境がえげつないところだったら、話にならない。
この地域は駄目、このあたりならOKで、的を絞って行く。
ゴミゴミした市内からやっぱり離れたいということになれば、やはりぐーんと郊外になる。
まずは環境を確かめた上で物件を絞る。
二人が顔を見合わせてここだ!と決めたのはMUSSELBURGHだった。
インターネットで新しい物件を発見!建物はやはりボロイが値段が安い上にFIXEDプライスときている。
まるで二人の為に用意されたような物件の登場で二人は即座にVEWINGをして、一番乗りした。
二人の財政で賄える範囲で、どんなにボロくても余ったお金で改装できる。
どのくらい改装しないといけないか・・・を念頭に家を見てまわる。
お年寄りが暮らしていたそうで、老人ホームに入ったので家を売るという事情だった。
母に代わってと、その娘が部屋を案内し、全ての実権を握っているという感じだった。
フラットだが、最上階。
キッチンは全面改装、シャワーがないので、シャワー。
これだけの費用で済むのなら・・・二人は顔を見合わせて売り主にオファーを出した。
こういう超お買得物件は勿論早い者勝ちである。
即座にソリシターに連絡を取って手続きの開始を待っていた。

二人はまるで雲に乗ったように浮かれていた。
長いこと待ったけど、買う時はこんなにスムーズに行くとは思ってもみなかったからだ。
hirokoはあれこれ今後の計画を練りながら、ショッピングリストを作成し、頭に浮かぶ部屋の間取りに、あそこにはこれを置く、ここにはこれを・・・・おニューのキッチンに・・・と、どんどん夢は大きく膨らんでいた。

ところが翌日、信じられないニュースがソリシターの方から入ってきた。
私達が売り主にオファーを出して連絡先や其の他諸々を書き留めて貰ったにも関わらず、この売り主は私のVEWINGの後も人を案内し、あまりの人々の感心の多さに、欲の皮が突っ張りはじめたのである。
結局FIXEDプライスとして出していたものを一旦市場から外し、再びOFFERオーバーの物件として出すというのである。
これには開いた口が塞がらなかった。
何と卑劣なことをするんだろうか!FIXEDプライスで出しておきながら、しかも私達が一番乗りでオファーを出して連絡先も控えてもらったというのに!

hirokoはその後自制心を失ってしまった。
もう嫌だ!もう嫌!こんなグリーディーことってある?
引越し後からちょびりちょびり溜まってきたストレスというストレスが一気に大爆発を引き起こしてしまったのだ。
hirokoはギネスをあおり、睡眠薬と精神安定剤を口の中に放り込んだ。
気が付くとベッドの上、そしてまたありとあらゆる安定剤という安定剤と睡眠薬を数もわからないほどに飲み込んだ。
部屋をあらしているようだ。
誰かが来ている?
救急車?
気が付くと手の甲に注射器の針が刺さっていてとっても痛い。何すんねん!タバコやタバコ!タバコが吸いたい!
眠りにつく。
精神科医の女ドクターがいろいろと質問している。
また記憶を失う。
タクシーに乗って戻ってきた。
クリス君が泣いている。
又暴れたようだ。
日本人のS君が来ている。
何でやろ?
気が付くとまたベッドの上だった。
しばやくするとS君とYちゃんがいた。
まる1日半の記憶が全く途切れ途切れで殆ど覚えていない。
大暴れして寝て、又暴れてを繰り返していたようだ。
ただだた眠りたかっただけなのに、薬の乱用は本当に恐ろしい。
S君とYちゃんには本当にお礼の言葉も無い。
翌日は義母のノーラがインバネスからかけつけて3晩泊ってくれた。
ポール君やクリス君の兄たちからもたて続けに電話が入る。
何て馬鹿なことをしでかしたんだろう。

当たる場所のないhirokoはその怒りの鉾先をクリス君に浴びせたみたいだ。
離婚する。私はロンドンへいく!(何でかようわからんが、喧嘩をしたらhirokoはいつもロンドンへ行く!というのが口癖せなんだから、たまんねぇ)
数々の罵倒を浴びせかけた。
まるでお山のガキ大将ではないか!

正気と健康を取り戻した今、すごく冷静だ。
もう今後こんなド馬鹿な真似は二度としない。
もう今後クリス君を泣かせることは決してしないと心に誓った。
今回のことで真実が見えた気がする。
大切な人達がいるということを・・・・






ウンコの街

中英行へ行く途中のことだった。
よそ見をして歩いていた。
それほど道路が凍結してIcyでもないのに、ズルリと足元をすくわれた。
嫌だ!嫌な予感がする!お願いだ!バナナの皮だと言ってくれ!
hirokoは一心に願うのだが、その願いもむなしく、靴にべったりこびりついていたのは、ウンコだった。
それも何日前のひからびたものならともかく、ここ何時間前に放置された比較的新しい水分をたっぷり含んだ出したてほかほかのものだ。
ウンコを踏んづけることほど悲しいもんはない。
うん?うん?運?うんがつく?運が付く?
一体全体こんなこと誰が考え出したんだろ?
hirokoは靴の底に張り付いたウンコを情けない思いで、道路に擦り付けていた。

スコットランドの首都エジンバラに引越してきて、まず最初に驚きふためいたのは、この街の汚さであった。
大々的な予算で持ってパーラメントの建築が進行し、今やその金銭が底をつき、大赤字でしかも期限内にOPEN出来るかどうかわからない状態である。
街の至る所には真新しい黒い大きなごみ箱が設置されているというのに、街はごみだらけなのにはいささかショックだった。
観光客の目に入る観光地や道路だけがピカピカで、ローカルの住む本当の街はゴミとウンコにまみれている。
一体どうして人々はそう簡単にゴミを道路にポイ捨てするんだろう?
犬を飼うのは自由だ。
だが、飼う以上は下の世話までするのが常識ではないのだろうか?
特にhirokoはUKで一番奇麗な街と呼ばれているアバディーンからやってきたので、このあまりにものギャップに開いた口が塞がらない思いだった。
そりゃぁアバディーンだってゴミは落ちてはいる。
モップで磨いたようなピカピカな街では決してない。
週末が開けるとお菓子の袋やビール瓶や缶が転がっている。
それを目にするたびに、何て汚い街なんだろうと思っていた。
だが、月曜日の朝には清掃のおじちゃんたちの立派なお仕事によって、街は再び奇麗な花の街として蘇る。
それがいい証拠に、他所からアバディーンへ遊びに来た人々は皆が皆口を揃えて言う。
奇麗な街よねぇ。って・・・・
ふーん、そうかなぁ。と半信半疑だったが、マジでこのエジンバラに暮らしはじめて全くその通りであることに納得する。
どうしてこんな御大層なごみ箱が設置されているというのに、ちょいとそのゴミ箱の蓋を開けてゴミを放り込むという簡単な作業が出来ないのだろうか?
人々のモラルの問題だろうか?

この街の一部のスノッブな人々から言わせるとこれだけよそ者が流れ込んでくるコスモポリタン、街を汚くしているのは世界中の学生たちやアジア系やインド系、パキスタン系の人間の仕業ということらしい・・・
こういうことを聞くと、無性に腹が立ってくる。
この街に住んでみて、こういう所謂外国人たちが優雅に犬を散歩させながら、ウンコを放置させている姿なんぞ一度たりとも見たことがない。
だいたい学生たちが犬を飼うか?である。
それに週末に酔っ払いながら道路にお菓子の袋をポイ捨てしているのは、え?あんたんちの娘や息子でないのかえ?と言いたい。
閑静な住宅街の地区には不思議とウンコが見当たらない。
つまりだ、こういう閑静な住宅に住んでいる連中が、「犬をお散歩させなくっちゃ!」と毎日自分たちの地域から出てきて、どこの馬の骨が住んでいるかわかんないようなフラット街を犬の便所代わりにしているというわけだ。
何たるこった。

随分昔のことだが、hirokoはWEBのエッセイの中でアバディーンでF言葉が乱発されている内容のものだったが、勿論「ラ・ボーン・バゲット」のキッチン内はFの大嵐で大洪水だった。
DRニール君もすごいし、うちの優しいクリス君だって、ゲームに熱中するといつもFを乱発させている。
こういう日常生活の当たり前のことを書いたところ、エジンバラ出身のとある御婦人からお叱りの言葉を頂戴した。
スコットランドではFなんて言葉は喋らない。エジンバラでは誰もそんなお下品な言葉は吐かないとのことだった。
ふーん。こりゃぁいけないな。ひょっとしてアバディーンだけで乱発されているのかな?・・・と半信半疑だった。
ところが、エジンバラに引越してきてからどれだけのF言葉を外で聞いたことだろう。
友達のYちゃんが働くビスケット工場ではおばちゃんたちが毎日の日常会話である。
まぁだからといって、F言葉を英会話として学ぶ必要はないのだが・・・・
つまりこの御婦人はうそつきだということだ。
この御婦人は多分こうしたお下品な言葉を吐いたことがないというだけのことだ。
どうしてこうスノッブなんだろうか?
エジンバラってこの両極端が住んでいるって感じだ。
奇麗なプリンシズ・ストリートを一筋一筋離れるごとに街は汚く、F言葉をバンバン吐く人種や酔っ払いに出会って行く。
おまけにアルカイーダの一味までも住んでいる。
これも本当のエジンバラの姿である。
hirokoは嘘は書けない。

大きな資金不足で頭を抱えている現状。
はたまた税金が上がるのか?
コスモポリタン?北のアテネ?
ごみ箱だけをバカボコ設置するばかりが脳ではない。
もっともっと住民のモラルの向上に向けて教育せねばいかんのやないかえ?
靴にべっとり張り付いたウンコを踏みしめながら、建設途中のパーラメントを睨み返す.

ところがある日のこと。
近所のスタジアムでフットボールのゲームがあって、我がフラット前の通りは応援にかけつけるファンたちの川状態になる。
こういった試合が開催される時には、お馬に乗ったおまわりさんも登場する。
パッカパッカと軽快な音を立ててフラット前を通過していく。
「あっ!お馬ちゃんだ!」と、窓から覗いて見ていると、その凛々しいお馬ちゃんのお尻からは、それはそれはお見事で拍手を送りたくなるような山盛りで巨大なウンコがまるで滝のようにボロボロと道のど真ん中に落としている。
お馬に乗ったおまわりさんもこれまた凛々しく涼しい顔をしながら、通り過ぎてゆく。
間違っても凛々しく涼しい顔をしたおまわりさんが、よっこらしょっと馬から下りて「しょーがねぇーねぁ。」とボヤキながら、お馬ちゃんのウンコをビニール袋の中に拾い集めるなんてことは有り得ない。
天下のおまわりさんまでもがウンコを落としてそ知らぬ顔なんである。
KEEP CLEAN EDINBURGH・・・・などと映画を見に行くと予告編の合間にこんな広告までお目にかかる。
だが、おまわりさんまでもウンコを落とすのである。
ウンコで腹を立てるのはもうやめよう。
こんなアホらしいことはないとhirokoは思った。






雨のキッチン

こぬか雨振る・・・・御堂筋・・・ああああ、長崎はぁ、今日もぉー、雨ぇだったぁ!
思わず口ずさみたくなる。
家の中にいるというのにである。

キッチン内におニューの冷凍庫と冷蔵庫が入ってきてウキウキしていたのもつかの間、またしても賃貸ボロアパート特有の問題が生じたのだ。

ある日のことふとキッチンで料理をこしらえている最中、何やらポツネンポツネンと音がする。
ふっと見上げて回りを見るとキッチンの片隅の一角のひび割れの部分からポツネンと水が落ちているではないか。
そーいや、この夏、雨ばっかやったからなぁ。と普通ではこうなるところだが、我家は最上階ではない。
つまり、階上の住人のキッチンのどこかからしたたり落ちているということになる。
こういった場合に一番に考えられるのが、ワッシングマシーン、洗濯機のコネクションが疑われる。
まぁ、何かの弾みかもしれない。
例えば階上の冷蔵庫も冷えすぎるので、解凍作業をしていて水がキッチン中に広まったて、そのかすかな水がひび割れから滴り落ちたとか・・・・
シンクに栓をしたままで水を出しっぱなしにして、キッチンを水浸しにしたとか、こういう一過性のものだと思っていたし、水漏れと言っても一個所だけでそのポツネンの間隔も間があったので、暫く様子を見ていた。
ところが、水漏れは止まるどころか、2個所3個所とひび割れの空間を求めて移動しているようで、一向に漏れることを止まなかった。
こいつは結構深刻やで!
そこで早速階上の住民のドアを叩く。
中から出てきたのは若いあんちゃんだった。
事情を説明すると、「????変やなぁ?別に水をこぼしたり、水浸しにした覚えはないよ・・・だけど、ワッシングマシンを調べてみよう・・・」という。
そこから我家の状況を見に来るということもなく、何の音沙汰も無く時間だけが過ぎ、キッチンの水漏れ大移動は止むことなく進んで行く。
バケツやボールを至る所に設置してみるが、翌日になると落下地点が移動している。
移動するたびにバケツを移動する。
勿論エージェントに連絡するが、ここは他人事である。
何度も何度もくどい程に連絡を入れなければ状況を察知してくれないようだ。
こんな状態が何週間と続いた後、とうとうクリス君が爆発して、エージェントに手紙を出した。

「僕たち、HOLIDAYへ2週間出掛けます。水漏れは依然として続いていて、現在6個所にも及んでいます。
毎日バケツの水を捨てないといけないし、毎日落下個所が移動するので、HOLIDAY期間中は、そちらの誰かがここに寝泊まりしないといけないでしょう。そして妻の健康の為?にカウンシルの環境係りに連絡をいれなければならないでしょう。いつ落ちてくるかわからない天井の下で僕たちは暮らせませんから・・・・」

あはは・・・こりゃぁまた大袈裟な・・
ホリデイはホリデイだが、2週間も家を開けるホリデイではない。

hiroko自身は、勿論水漏れに対しては腹は立つが、冷蔵庫や冷凍庫のような深刻さはない。
所詮、仮のお宿であって、自分たちに非がない限り、こちらもやっぱり他人事である。
こいつが自分たちの物件ならば目を狐のようにつり上げて怒っているところである。
ただ、ここの持ち主の立場だったら・・・と思うと、テナントとしてもやれることはきちんとしてあげたいのが人情である。
エジンバラのフラットは古いボロアパートが多いので、このテの問題が後を絶えないらしい。
エージェントとしても「ああ、又か・・・」ってなのんびりした気分なのかもしれない。

だが、しかし、クリス君がこんな手紙を出した以上、エージェントも真っ青になったのか、ぶっ飛んできた。
「うーん。こりゃぁ酷い!階上はどんな具合だ?」
なんて聞くが、「ただの若い男の子で、全く責任感なんか持ち合わせてないよ。見にもこないし、何もしてないみたい」
するとエージェントは階上の住人と直接コンタクトを取り始め、ようやく階上のあんちゃんが我家のキッチンの
状況を見にやってきた。
「おかしいなぁ?ワッシングマシンはきちんとコネクトして水は漏れていないんだ・・・僕もホリデイなもんで、急いでプラマーに連絡して見てもらうことにするよ」と、約束して戻っていった。

最初のポツネンの発見から何と1ケ月もかかっている。
その間にキッチンの天井とリビングにかけておおきなしみの数々がデコレーションされてしまっている。
最初のポツネンで何とかしてくれればこれほどアホウな広がり方はしなかったはずだ。

クリス君のホリデイが始まって次兄の家に泊まりに行く前前日に水が嘘のようにぴたりと止まった。
何とも不思議な思いだった。
トントンと玄関のドアを叩く音がする。
「Hello!」
と、現れたのは階上に雇われたプラマーか?それとも彼のお父ちゃんか?
とりあえず、事の原因を説明してくれた。
何でもキッチンのシンクから排水される配水管のパイプが緩んでいたせいだったらしい。
だが、其の後彼が謝りにくるとか、今後の問題とかを話し合うことなんぞ、一切ないのである。
まぁ、こちらもただのテナントであるし、生涯ここに住む訳でもない。
天井は醜いが水が漏れないのなら、それで満足である。

ところが大家としては大問題である。
エージェントの方から大家が状況を見に来たいとの連絡が入った。
数日後大家さんがやってきた。
大家さんと身構えていたが、30代の若いカップルだったので、意外な感じだった。
さて、階上と階下で起こった水漏れの場合、どちらがデコレートするかの問題が残っている。
家を購入する場合、必ず家の建物保険に入らねば、この国では家は購入できないシステムになっているので、
どちらがデコレートするにせよ、問題はないのでは?と思うのだが・・・・
大家としては上からの水漏れ被害なのだから、階上の者が費用を出すのが当然だと思うのだろうし、階上の者としては出来る限り事実をひた隠しにしたいところであろう。
判明したことは、大家は階上の若者に連絡を取ったが、何が原因だったかは話してはくれなかったというではないか!
「わからない。何が原因だったか・・・・」ととぼけたそうである。
hirokoは大家さんにプラマーから聞いた原因を一部始終話したら、思いっきり顔をいがめていた。
これから両者の間でいざこざいざこざが始まるのだろう。

hirokoは思った。
フラットを買う時には最上階がいいと。





凍らない冷凍庫と凍りすぎる冷蔵庫

「ファーニッシュド」の賃貸フラットには最低限必要な家具や電化製品が備わっている。
だいたいが台所用品、鍋、フライパン、食器類、クッカー、冷蔵庫(冷凍庫はないところも多い)、電子レンジ(ないところもある)掃除機、洗濯機、アイロン、ベッドにたんすといった具合である。
ただしTVは別口なのが面白い。
多分、備えていると空っぽの状態でも大家がTVライセンスを払わないといけないからだろうか・・・・
それゆえファニッシュドのフラットに入居する際には身体1つで入ることが出来る。
賃貸であるからこれらの備品が故障したり壊れた場合は、勝手に自分達で修理したり捨てたりすることは出来ない。
普通は大家が新しいものを買ってくれるか修理してくれるかするのが普通である。

hirokoとクリスは後ろ髪を引かれる思いでアバディーンのフラットに電化製品の一切合切を置いてきた。
フーバー君や冷凍庫、冷蔵庫、クッカーなんぞは比較的新しいものを奇麗に使っていたので、この賃貸フラット入居時に備え付けられていた冷蔵庫、冷凍庫、クッカー、洗濯機なんぞのボロさを見て、hirokoはどえらく憤慨した。
だがまぁ、ここは仮宿。
新しいお家に移ったら、すべてをおニューで・・・と自分自身を慰めていた。

さて、VEWINGの時には発見されなかった不都合は、いざ住んで生活をしてみないと発見されないのが世の常である。
案の定我家の備品にも欠陥を所々に発見する有り様だった。
まずはリビングのカーペットが気にくわない。
ネイビーブルーで見た目には美しいのだが、こいつがクセモノで、ほこりやごみがどえらく目立つのである。
糸屑一つ落ちても目立って仕方が無い。
故に毎日毎日掃除機をかけねばならんという訳だ。
そこで備え付けの掃除をかけてみるのだが、こいつがバキューム能力に欠けているときている。
ゴミが満タンという訳ではない。ただただ能力がないのだ。
よくぞアバディーンからの掃除機を持ってきたもんだと、アバディーン時代の掃除機を取り出して、こいつが活躍するはめになった。
まぁここは仮宿、新しいお家に移ったら・・・
カーペットはゴミの目立たないものが断然いい。

そうこうしているうちに何やら冷凍庫の冷え具合がこれまた乏しい。
冷凍食品が解凍し始めたのだ。
氷を作っているはずの製氷器は未だに水のまんまである。
冷えているのは冷えているが氷を作らない、維持しない。
これはまるで冷凍庫の形をした冷蔵庫ということになる。
「この、ニセ冷凍庫め!人を馬鹿にしよってからに!」
だが、まぁここは仮宿。
新しいお家に移ったら・・・・・

すると御隣に並んでいた冷蔵庫も何やら変な具合である。
冷蔵庫の上段には冷凍室が備わっている。
ここの冷凍室が凍りすぎる。
凍りすぎて1日放ったらかしにしていると冷凍室の扉が北極になっている。
氷のベルトが扉を圧迫して扉が斜めに押し出されて、本体の冷蔵庫の扉すら閉じることが困難となるではないか!
道具箱からノミとトンカチを取り出して、雪祭り氷の祭典!ならぬ、氷削りもhirokoの日課に加わってしまった。
一体こいつは何やねん?
冷蔵庫の形をした冷凍庫に冷凍庫のフリをした冷蔵庫。ナメとるんか!である。
だが、まぁここは仮宿。
新しいお家に移ったら・・・・
・・・とは言ってらんない事件が発生してしまった。

いつものように「マジで嫌やで!このアホカーペットめっ!」とぼやきながら、ブルーのカーペットに掃除機をかけて
冷凍食品を冷蔵庫の冷凍室に放り込もうと冷蔵庫のドアを開ける。
「あーあー、また氷の祭典のお時間ねっ!」
hirokoはいつものようにノミとトンカチを分厚いあてがいながら、トントン・カチカチと氷の除去作業を始めたのだ。
「マジで嫌やで!このアホ冷蔵庫めっ!」
トントン・カチカチ・・・・
プシューシューシューシュー・・・・・・
何かに当たって氷の中から霧のようなガスがhirokoの顔めがけて噴射された。
「ウォーうぉー何やねん?何や?何これ?」
氷のおならのようだ。
このおならは噴射をし続けている。
シューシューシュー。
hirokoは腰が抜けそうにひっくり返った。
おならは最後の一絞りを放出すると静かに元のさやに治まった。
何やらあたしはどえらいことをやらかしたようだ。
とにかく電源を切って、この北極を除去して様子を見ないと・・・・
冷蔵庫の食料品を冷凍庫の形をした冷蔵庫へと移動させ、丸1日半かかって氷を撤去してみる。
冷蔵庫の冷凍室の壁には、わずかに何かが刺さった跡が見られる。
これこそ氷の祭典のノミの刺さった跡である。
ガムテープでしっかりこの穴を塞いだら、何とかなるんではなかろうか?
hirokoは半信半疑でガムテープで穴を塞いで電源を入れてしばらく観察してみたが、冷蔵庫は一向に冷えていく気配をみせなかった。
どえらいことをしちまったな・・・・・冷凍庫が凍らないのはあたしの責任ではない。
でもこの冷蔵庫をお陀仏させてしまったのは、氷の祭典を施したhirokoが犯人なのである。
さて、どうしたものか・・・・
こういった備品が壊れた場合、大家が直すか、新しいモノを入れてくれるかであるから、冷凍庫は問題無い。
然し冷蔵庫に関しては、冷凍室の一角にノミの刺さった跡がある以上、しらばっくれて知らぬ顔は出来ない。
これはもう自分たちで買わないといけないなぁ・・・お金ないのに・・・・トホホ。

取りあえず、クリス君に全てを打ち明けた。
何て馬鹿なことをやっちまったんだ!とは彼には言えない。
何故ならクリス君は台所仕事に加担することがないからだ。
氷の祭典がいかに重労働であろうことを知りながら、見てみぬふりをしていたので、何も言えるはずもない。
ただ、彼が言うには・・・
余計なことは言うなよ。ノミとトンカチでトントン・カチカチやりましたぁ。なぁーんてこっちから言わなくてもいいんだぜ。・・・うーん。彼はやっぱりスコティッシュや!
フムフムと相づちを打っていた。

すぐさまエージェントに連絡を入れて、冷凍庫が氷を作らない、冷蔵庫が全く冷えない・・・と説明すると、翌日エージェントから派遣された電気屋さんが2つのどでかい箱を調べにやってきた。
何やらメーターを取り付けて2つの昔は冷凍庫であったはずの箱と冷蔵庫であったはずの箱を調べはじめた。
電気屋のおじちゃんは「冷凍庫は壊れてますね」
次に問題の冷蔵庫を調べはじめる。
ドアをぱこっと開けて、冷凍室の中も調べる・・・・・
「やりましたね?氷の祭典!ノミとトンカチ?」
ここで、嘘のつけないhirokoはウンウンとう頷きながら「だってぇ、ノミとトンカチやんないと本体のドアまで閉じられなかったの、毎日毎日なんだもん・・・」と言うと、にんまり笑いながら
「だいたい冷凍庫も、冷蔵庫も、壊れる寸前っていうのは異常に冷えすぎたり、熱くなったりするもんなんですよ。でも冷凍室のガスを抜いてしまったらもうお陀仏ね!」
・・・うううう・・・・

仕方ねぇな。
多分冷蔵庫だけでも自分たちの負担なんだろうな・・・と、身構えていると、驚くことに翌日エージェントの方から全くおニューの冷蔵庫と冷凍庫が運ばれてきた。
料金は請求されていない。
ああ、あの電気屋のおっちゃん、氷の祭典のことは目をつむって報告書を書いてくれたんだ・・・・
ラッキィー!人間正直でないといかんよな。

かくして、我仮宿のキッチンにはしっかりと氷を作ってくれて、冷凍食品を入れても解凍しない冷凍庫と冷凍室の扉が北極にならないまともな冷蔵庫が二つ仲良く並んでええ仕事やってくれるようになりましたとさ・・・


ワールドカップあれこれ
 

番狂わせで強豪が続々と零れ落ちていく。
フランス、アルゼンチン、イタリア、スペイン・・・およよである。

そんななかでの決勝戦。
ロナルドのこぼれ落ちる様な笑顔に思わず拍手を送ってしまう。
別段ブラジルを応援していた訳ではない。
ただただ天才フットボーラーとして世間をあっといわせた彼が負傷で長い間のブランク。
ワールドカップに出場と言えども100パーセントの体調ではない。
・・・んが、にも関わらずやっぱり彼は天才だった。

今回のワールドカップではミスジャッジも数多く、おとりぶっ倒れ(痛いよぉー!あいつが蹴ったんだよぉー!)が目に余るほどだった。
これも技術や作戦のうちかもしんないが、hirokoはこういうのが大嫌いである。
男なら正々堂々と戦って欲しいもんだ。
ラグビーを見たまえ!どんなにどつかれても蹴られても倒れても七転び八起きの起き上がりこぼしみたいな男のガッツ!
これこそ真のスポーツやないかえ?といつも思ってしまう。
イングランドの人気者リバプールのマイケル・オーエンですら、ペナルティーを狙ったおとりぶっ倒れ。
誰も触れていないのに何故かしら倒れる。よっぽど足腰が弱いのか・・・
お陰でベッカムがペナルティーキックを決めて駒を進めた。
なぁ、そこまでして勝って嬉しいか?とオーエンに聞きたいところである。
ブラジルのドバルドだって酷かった。
ころころころりと転がったボールが足元に触れただけでどえらいぶっ倒れようだ。
これほどの選手がこんなことをせんといかんのか?
君たち揃ってラグビーに転向して精神共々鍛え直しなさい!と言いたい。
そんななか、天才ロナルドがどーしてこれほど人気があるのかというと彼はフェアーだからだ。
こんな茶番劇はやらずとも彼はすぱーっとゴールを決める。
見ていて爽快ではないか。
実はhirokoはドイツを応援していたのだが、バラック君がセミファイナルでイエローカードを食らって決勝出場を果たすことが出来ずめたくそ悔しい思いで見ていた訳だが、まぁブラジル、敵ながらロナルド君は別口だった。

さぁて、日本、韓国との共催で繰り広げられた第17回ワールドカップも終わってしまった。
お祭りが終わって、スコットランドは夏をスキップして早くも秋風が・・・・そんな感じである。
何せスコットランドは出場出来なかった訳でかなりテンションが低いのは当たり前。
しかしだ、スコットランドが出場しないのにイングランドが出場するとあってはスコティッシュは我慢できない。
TVやメディアでは連日イングランド健闘ぶりを称え、BBCでは「我々は・・・僕たちは・・・」とまるでこのTV局がイングランドのみの放映だと思われるような話し振りにスコティッシュ達は苛立ちを隠せない。
「我々って誰なんだ!」クリス君は毎日TVに向かって怒っていた。

「ああ、ようやくワールドカップも安心してリラックスしながら観戦できるぞ」とスコティッシュたちは言う。
何せ自国が出ないから安心して見れるということだが、すんごい負け惜しみに聞こえる。
普通なら自国のチームのフットボールシャツを着込んでジミーハットやキルト姿に変身して街を練り歩いたりPUBで大観戦といきたいところだ。
これが出来ない欲求不満のスコティッシュ達は一体何をして憂さをはらすのか言えば、敵国イングランドが負けるように相手国をひたすら応援するのである。
イングランドの一回戦の相手がスウェーデンと決まるや否や、スコティッシュ達はこぞってスウェーデンのフットボールシャツを買い込む。
スコットランドでスウェーデンのフットボールシャツが飛ぶように売れる。
スコティッシュ・リーグのセルティックで大活躍している人気選手のラーソンに向けて熱い熱いメッセージや手紙をせっせと送る。
こんときばかりは敵チームのレンジャーズのサポーター達も休戦状態に入って共にラーソンに期待をかける。
PUBでの観戦に力がこもる。
スウェーデンとの試合は1ー1で引き分ける。

さて、お次は?
強豪のアルゼンチン、再びスコットランドではアルゼンチンのフットボールシャツが飛ぶように売れる。
PUBにはアルゼンチンのシャツや国旗を掲げたスコティッシュ達で盛り上がる。
強豪のアルゼンチン。何なくイングランドをやっつけると期待で鼻息盛んなスコティッシュ達にため息と怒りが盛り上がる。
番狂わせでイングランドがアルゼンチンを破ってしまったからさぁ大変。
TVではこれでもか!これでもか!という程に湧きあがっている中、スコティッシュは断然面白くない。
ナイジェリア戦で引き分けてとうとう一回戦を突破してしまった。
悔しい悔しいスコティッシュ。
しかしだ、たった2点で2つのゴールで一回戦を突破とは・・・なんともお粗末なグループである。
メディアはアルゼンチンを破ったイングランド。もうワールドカップを手にしたようなお祭り騒ぎである。
hirokoはそんな回りのスコティッシュを冷やかに観察する。
亭主がスコティッシュである以上、hirokoも多少なりともブレインワッシュされてしまって、こうまでTVやメディアが騒ぎ立てると面白くないのは事実ではあるが、イングランドを応援しろとは言わないがそこまで露骨に相手国のフットボールシャツを着込んで関係のない相手国を応援するという幼稚な真似をすることもないのでは?と思ってしまう。
随分昔に戦争で負けて統合されてしまったのだから仕方ないやない?
独立独歩が出来ない国なんだから仕方ないやない?
それが嫌ならまた槍と楯を持って戦争するしかないやない?
もうさぁ、オリンピックみたいにグレートブリテンで1つのチームとして出場したら問題無いんやない?
・・・・これを言うとクリス君は怒る。
そんなことをすればスコティッシュは誰一人選ばれないさ・・・・
何て悲しい国なのでしょう・・・・

hirokoは日本人だ。今回は日本が開催国なのでこうやってイングランドが勝ち進んでいると毎日のように日本にいるイングランドチーム の様子を画面で紹介してくれるし、日本の今の様子が垣間見れて実に嬉しいことなのである。
だが、hirokoもここに暮らして6年。
日本の選手達のことは皆目無に等しい。
ヨーロッパの花形選手達はヨーロピアンリーグやイングランドのリーグ、スコティッシュ・リーグ等でおなじみである。
彼等が母国の代表として出てくると何だか妙な感じと親近感すら覚えるのだが、日本人で有りながら、日本の選手は殆ど知らなかった。
ナカタとオノとイナモトぐらいなものだ。
日本チームが登場した。
4年前のフランスで見た時におったまげたことであるが、初めてお目見えした日本人選手達が金髪だったのに驚きふためいてしまった のが昨日のように思い出される。
いつから日本人のDNAに金髪が混入されたんだろう・・・・似合わないのに・・・・どーして?
やっぱり今回も金髪だ。
これってブームなの?
ベッカムがソフトモヒカンでライオン頭。一体何なんだ?
どーしてそんなに目立ちたいのだろうか?
そんな外見で目立つよかプレイで目立てばいいじゃないか!
士気を高める為の金髪?なのだろうか?
それならいっそのこと日本人はちょんまげでやればいい。
中国人は弁髪で・・・楽しいぞ!

(今ふと思い付いたのだが、スコティッシュはキルトをはく。勿論パンツははかない。相手が迫ってきた時にちらりとスカートをめくりあげる。
「ううううっ・・・・!」と、相手がひるんだ隙にゴォールゥー!楽しいぞ。)

ともあれ、日本チームの登場に胸は高まった。
監督はトルシエ・・・・へぇ、可愛いじゃん。
監督と言うよか、会計士か銀行家といった風貌だな。
思いもよらぬ進歩に目を見張っていた。技術的に4年前に比べると遥かに素晴らしく進歩している。
イナモトはアーセナルズにいたのだが、なかなか出番がなく残念な思いでリーグを見ていたが、まるで水を得た魚のようにピチピチと元気がいいではないか・・・
ミヤモト(こっちではマスクマンと呼ばれていた)が素晴らしく、解説者はべた賞めしている。
しかしだ、あの赤毛のとさか頭(トダ)”赤毛とかげと命名した”はいけない。
ちょこちょこ悪さをやっていて、TVでは彼の悪さを何度も何度もリピートする。
「いけませんねぇー」ってな具合で。
いくら最近はどのチームもダーティーになってきたといえど、せっかくのミヤモト、ナカタ、イナモトの素晴らしいプレイがこの赤毛とかげのせいで台無しとなってしまう。
日本はフェアーであって欲しい。
4年前にワールドカップ初出場だったニッポン。たった4年でここまでやれるとは思わなかった。
hirokoは胸が一杯だった。
TVの画面に向かって悪態をついている亭主とは裏腹に単に日本の様子が見れて、勿論日本チームにエールを送りながらhirokoは毎日楽しんでいた。

イングランドに話を戻そう。
二回戦のイングランドはデンマークを相手に3ー0。
もうメディアは狂わんばかりである。
解説者やゲスト達の声は上ずっている。
ところがブラジルが相手となれば話は別。アルゼンチンを破ったといえどもあれはマイケル・オーエンの茶番で得たペナルティー。
だが、イングリッシュ達は盛り上がる。何と言ってもアルゼンチンを破った僕たちはきっとブラジルも・・・と
期待が大いに高まっている。
試合は2ー1。イングランド敗れたり!
でもってようやくスコティッシュ達の悲痛な叫びが届いた。
勝っているうちは大人しくしている日本にいるイングリッシュ達も負けたとなれば暴れるのでは?フーリガン共が・・・と
緊張しながら見ていたが、何の暴動もなく帰国するに至ったようでhirokoは驚いている。
何でも日本のホスポタリティー、フレンドリーさに圧倒されてフーリガンも暴れる機会を逃したそうだ。
連日TVでは日本の様子、特にレポーター達は日本人の親切さ、礼儀正しさ、施設の素晴らしさ・・・そして物価の高さを驚異の眼でレポートしていた。

日本はいくら開催国でここ数年来でフットボール熱が盛り上がってきたと言えどもやっぱり野球国である。
同じく開催国の韓国に比べると日本は企業や自治体が盛り上がって、韓国のように全国民が一体となって応援に参加するということはない。
ここいらへんも鋭いレポーター達はついていた。
日本は経済が崩壊したとは言えどもまだまだ豊かな国なのである。
ワールドカップで負けたからといって、選手達が暗殺されたり歩いていて石を投げられるなんてことはない。
別にフットボール観戦以外にも、野球はあるし、相撲はあるし、オリンピックに出りゃぁ何がしらの金メダルが獲得できる。
それに別にスポーツ観戦がなくとも人々には何かの遊びやレジャーがある。
その点、そういう余暇の楽しみのない国々の人達は国民的スポーツ観戦こそが命となる。

ヨーロッパを例にたとえると、ヨーロッパ1豊かな国であるドイツ。
ドイツなんかは別段フットボールだけに感心があるわけではない。日本同様いろんなスポーツで好成績が期待出来るし、遊びやレジャーだって豊かである。
ところがヨーロッパ1貧しい国と言われているスコットランド・・・こここそフットボールしかないのである。、
何て悲しい国でしょう・・・・
フットボールしかない国でワールドカップに出れない・・・・どれほど悔しいか想像できるでしょ?

悲しい国なんだけど、人々はとっても面白い。
とにかくスコティッシュのサポーター達は華やかでフレンドリーで大会を盛り上げる。
いつもそういった国際大会ではベスト・サポーター賞とやらに輝いている。
最もそんな賞貰ったってチームが弱ければ何にもならないのだが、彼等はチームが弱いから誇れるものがない。
しかるにいつも俺達はベスト・サポーターなんだ!と胸を張る。
何て悲しい国でしょう・・・・

信じられないような実話がある。
1978年のワールドカップ。
開催地は遥か遠くのアルゼンチン。
4年ごしで計画的にお金を溜めたスコティッシュ達はアルゼンチンまで応援に出掛ける。ここまではいい。
この人達は計画的だからだ。
ところが中には行き当たりばったり盛り上がりで「おいらも行くぞぉー!」と片道の航空券だけで、アルゼンチンまで行ってしまう。
応援する。応援する。勝っても負けてもスコティッシュは陽気で相手国のサポーター達と出会っても一緒に盛り上がり、飲みあかす。
普段は財布の紐が石のように固いスコティッシュもフットボール観戦となれば話は別。
陽気にフレンドリーに金も将来も考えず、BEERをふるまう。
おごりまくって楽しい一時を過ごしたあと、財布の中身は空っぽとなる。
財布の中身が空っぽでは国にも帰れない。
親戚、友達などのつてで何とか帰国できた人達はいいが、多くのスコティッシュがアルゼンチンに止まって帰りの航空券を入手するために働いて帰国したとか・・・・
未だにアルゼンチンに止まっている人もいるという。
何とも信じられないお話だ。

だから、今回日本と韓国が開催地ということで、とくに航空券にしろ滞在費用にしろ馬鹿高い日本でこんなスコティッシュ達がなだれ込んだらはたまたアルゼンチンの如く母国へ帰れないガイジン浮浪者を生み出してしまったことだろう。
これでよかったのかもしれない。

4年後はドイツである。
ドイツならひとっ飛びだし、何とかして帰ってくることはできるだろう。
最も出場できればの話だが・・・・
その前に2年後のポルトガルでのユーローカップがある。
ワールドカップの憂さ晴らすことができることを期待しましょう。
 
 


引越しドタバタ劇

電話1本かけて約10万円程のお金を用意すれば、会社から見積もりのお兄ちゃんがやってきてダンボール箱やらラッピングのグッズをタダで貰えてすべてを業者がやってくれる、本人達はその経緯を見守るだけで重たい荷物をえっさほいさと運び出したり運び入れたりする苦労もなく手ぶらで悠々と古巣を後にして新居に着けば荷物はきちんと納まっている。
何十年と生きてきて、これまで何度か引越しを経験したhirokoであるが、こんな夢のようなお引越しを経験できた試しがない。
つまりいつも貧乏という訳だ。

今回もあれよあれよと言う間に引越しが決まり、毎日がVIDEOの早送りの様に慌ただしく過ぎていった。
当日は長年お世話になったサムちゃんが駆けつけてくれて、階下のアンティークショップのJohn氏と共に荷物を運びだし、彼の運転でPaul君を拾って新天地にあるストーレッジへと荷物をほうり込んだ。
2週間のホリデイ用セルフケイタリングアパートメントで快適に過ごしながらも新しいフラットを探し求めた。
ビューイング2件目で「これや!」というフラットを見つけ出し契約に漕ぎ着け、今度はストーレッジに置いてある荷物を新居に運び入れる
2度目の引越しとなる。
日本ではどうなのか知らないが、UKでは業者に頼むとそのフラットの階によってお値段が変る。
1階より2階の方が高くなるのは当然のお話だ。
同じ市内で距離は知れていて、ストーレッジから三階の新しい我家への搬入で安いところで£100、高くなると£300あたりが相場である。
しかしここでも天のお助けで、いつもの年ならフランスに帰っているはずのピートとレズリーがこの貧乏な夫婦を助けてくれて無事に新居への荷物の搬入をえっさほいさで完了した。
若くてピチピチとエネルギーが有り余っている頃とは違い、足はがくがく、息は途切れ途切れ。
引越しというものは歳を食ってからはやりたくないもんやなぁと痛感する。
今度家を購入してここから出ていく時は「お電話1本で・・・・」の優雅なお引越しをやりたいもんだと夢見ているhirokoである。

さて、UK人の時間観念のなさ、エエ加減さには馴れているはずのhirokoではあったが、またしてもかっ!かっかぁー!と大いに憤慨する出来事が二人を襲った。

フラットの賃貸契約も済み、不動産屋から鍵を受け取った。
当然ついているはずの電話番号を聞く。
「繋がってますよ。入居時から使えますよ。」で教えて貰った電話番号。
但しこのフラットの電話はBTではなくTelewestだという。
ふーん。
今迄BTのAnytimeだったのでインターネット接続も月々£14.99で使いたい放題に使っていたが、まぁTelewestでもその手のパッケージがあるらしく、また新しくダウンロードとサーフィン用にプロバイダーを設定し直さないといけないなぁ。
と軽い気持ちでいた。
早速何の疑いもなく「引越ししました」のお知らせを友人、知人に向けて発送する。
えっさほいさで荷物を運びあげ、荷物を解く。
電話器をつなぎBOXからさらに延長コードを引いてコンピューターのモデムに接続する。
受話器をあげる。
うんともすんとも言わない。げ?繋がってへんで!

不動産屋は確かに繋がっているから使えると言ってたはずだ。
hirokoはまぁまぁスコットランドやからなぁ。今日中に繋がったら・・・と気長に待つことにした。
ところがどすこい!翌日になっても電話はうんともすんとも言わないのだ。
クリス君が怒って外の公衆電話から不動産屋に報告するが、「そんはずは・・・」と答えが戻ってくるだけ。
だいたいUKの賃貸は電話やTVに関しては不動産屋の管理するところではないという。
つまりアパート自体とコンテンツのみ。
あとは勝手にやっとくれ!ってなことらしい。
だが、不動産屋は電話はTelewestだと言い、番号まで教えてくれたのだ。
そのまま引き継いで当然と思うのが当たり前。
クリス君はさらにTelewestにどーなってんだ?と確認を入れてみた。
するとどうでい!この線は完璧に切断されていて接続するには工事がいるという。
さらに今はとても込み合っているので電話が繋がるのは2週間も先になるなどと全く信じられないことを言うではないか!
2週間も電話もインターネットもメールもなし?んなあほな!
だいたい何で不動産屋は繋がっているなどと確認もせずにほいほいと言えるのだろう。hirokoは怒りが込み上がってくる。
リビングの電話BOX、ふと見るとBTのBOXもあるのに気が付いた。
電話器をこちらにつなぎ直し、受話器を挙げると、勿論繋がってはいないが、しっかり音がする。

「ねぇ、BTに変えたらええやん!インターネットのアカウントもそのまま使えるはずやし、2週間も待ってられへんで!」
「だけどTelewestの番号をみんなに教えちゃったよなぁ・・・」
「ううううううう・・・・」
「だけど取りあえずBTに連絡してみよう」

さすが天下のBTだ。
当日の夕刻にはしっかりと電話が繋がり、インターネットも無事に再開を果たした。
ただし、電話番号が変ってしまった。
あーあー、せっかくお引越し通知を出したところやのに・・・・
だがまぁ電話とインターネットが使えてほっとしていた。
ところがまたひとつ難題が二人を待ち構えていた。
TVである。

アンテナBOXにアンテナ線を突っ込みTVに接続する。
プレステ2やVIDEOとのコネクトも完了。
ハイファイそしてCDーRWとの接続も全て終えて、いざTVのスイッチを入れる。
BBC1、BBC2・・・・?????
映らへん!映らへんで!
どないなってんのや?一体どないなってんのやこのアパートは!
俄然怒りは再発する。
アバディーンでもケーブル会社が潰れてからアンテナには苦労させられたのだ。
「きっとこのアンテナは生きてへんのや!死んでしもうとる。そやから前の住人はTelewestでケーブル引いていたんとちゃうかえ?
そうや!絶対そうや!しっかしどうしてうちらってアンテナに苦労させられるんやろなぁ。」
「ケーブルかぁ。そうなるとやっぱりTelewestしかないぞ。ワールドカップもすぐに始まるというのに2週間も我家にはTVが見れない状態かぁ。」
「嫌や!嫌や!ワールドカップや!そうや!ケーブル待つよりもアンテナを修理してもらう方が安く付くんちゃうかえ?どのみちここは賃貸で一生住むところとちゃうんやし、持ち家やったらケーブルだってかめへんけど、勿体無いで!」
「まさにそうだよなぁ・・・」
「不動産屋も不動産屋やで!全く!ビューイングした時に何で言うてくれへんのや!何て無責任な!」
「まさか、電話は繋がってません。アンテナは死んでます。なんて言う不動産屋なんていないぜ。」

モヤモヤ・イライラしながら翌日を迎える。
気晴らしに買い物に出掛け、戻ってくると階段で上の住人であるおじいちゃんと出くわした。
hirokoは世間話を始め、TVについてきいてみた。
「おたくのアンテナはどうなってますか?TVの映りはこの辺はいいのかしら?」
するとおじいちゃんは「TVは実に奇麗に映っているよ。ここは共同でアンテナが1本屋根に据えるつけられていて、どの階も奇麗に映るはずだよ。年に1度この共同のアンテナの請求書が来るはずさ!」
「請求書もクソもうちは映らないのよ!どーしてかしら・・・」
「ちゃんと接続は正しくしてるのかな?」
(どーして男の人って女が電気関係をやるとこう疑う気持ちがあるんやろ?あたいはこう見えても動く電気やさんやで!)
「うん。ちゃぁーんと接続しているし、ヴィデオは映っているからTVの故障じゃぁないよ」
「ちょいと見てやろうか?」
「お願い出来る?」
おじいちゃんが接続状態を確かめるが間違っている様子はない。
しかし依然としてTVは映らない。
「うーん。おかしいなぁ。どーしてだろう」
おじいちゃんも顔をしかめる。
「きっとアンテナが機能しないから前に住んでいた人はケーブルにしたんじゃないかと思うんやけど・・・」
「うーん。そうかも知れないね」
そうこうしているうちにクリス君が戻ってきた。かくかくしかじかと事情を説明する。
おじいちゃんは同情しながら僕はすごく腕のいい電気修理屋を知ってるからそこへ行ってみるといい、彼はアンテナも修理してくれるはずだと
言いながらそのお店を教えてくれた。
早速2人してその電気屋さんに出向き、事務員の女性に事情を説明した。
彼女は携帯で外回りに出ている修理屋さんに連絡して折り返し我家に電話をくれて訪ねることに・・・ということになった。
アンテナさえ治れば・・・とこの修理屋さんの電話をひたすら待つのだが、いっこうに電話がかかってこない。
またしてもスコットランドやぁ!

どーしてこうもええ加減やねん!その日も1日棒に振った。
翌日になっても電話がかかってこないので、さすがのクリス君もムカついていた。
繋がっているはずの電話が繋がっていなくって、映るはずのTVが映らない。
二人の疲労はつのるばかり。
その日の午後、外から戻ったhirokoはリビングのソファーで悠々と寝っころがってTVを見ているクリス君を発見する。

「わぁ、どーしたのぉ?電気屋さんが来てくれて直してくれたん?」と言うと、クリス君は涼しい顔をしながら
「僕が直したんだよ」と、のた申すではないか!
「げっ!嘘やん!」

だいたいヒューズ1本取り替えたことのない男である。
電気関係は皆目無知に等しい。
我家の電気関係の接続は今迄すべてhirokoは取り仕切ってきたのである。
そんな彼にどうやってアンテナを直すなどという高度な技術が備わっていようか!
「嘘やん!嘘やん!」
hirokoは美しく奇麗に映るTV画面を見つめながらひとしきり喜んでいた。
この謎はこういうことだった。

クリス君はイエローページでアンテナ設置業者に電話をし、ことの事情を説明した。
アンテナの再設置で£80あたりだそうだ。
ふとしたはずみで彼は「僕たちアバディーンから引越ししてきたんだ・・・・・」と言ったところ、お店の人はこう言った。

「チューニングはし直しましたか?」と。
この一言でクリス君のつぶらな瞳からぼっこりとウロコがこぼれ落ちたという訳だ。
「チューニング!」
日本でも東京の周波数と大阪の周波数が違い電気製品に支障を来たす場合があることは聞いていたがhiroko自身引越しは幾度も体験してはいたものの近畿圏内から離れたことがなかったため、まるで他人事だった。
知らなかったぁ。そうかぁ。
そうかここはスコティッシュTVはあってもグランピアンTVはないんだ。
アバディーンのBBC1はここでは違うチャンネルで受信して設定をし直さないといかんのか。
hirokoも目からぼっこりとウロコが落ちた。
全く夫婦2人揃って大ばか者の大マヌケである。
もしここでわざわざ修理屋さんがやってきて「チューニング」するだけで呼び入れたとすれば・・・・大恥じもいいとこだ。

しかし、チューニングのこと発見したことも驚きだが、もっともっと驚いたことが、クリス君がマニュアルもなしにTVをチューニングしたという事実だった。
(このおっさん!やれば出来るんじゃないのよ!)である。
このときほどクリス君が一家の主としてたくましく後光がさして見えたことはなかった。
あまりにも嬉しくなって、我息子が難解な試験に合格した母親のように、すぐにhirokoは受話器を取った。
「プルルルルゥー、ハロー?ハーイ、ノーラ?今日はね、すんごい報告があるの。あたしの旦那様が今日ほど頼もしく見えたことはなかったわ!」
「あら、どーしたの?」
「今日、彼はTVを直したのよ!」
「冗談でしょ?」
「ホント!信じられないわ!2人しててっきりアンテナの故障だと思ってたのがチューニングで解決したまではわかるけど、クリスがね、チューニングしたのよ!TVのチューニングを!・・・・・」
「まぁ、・・・・・信じられないわ!すごい!」
たかがのチューニングである。しかしアンチ・テクノの家系であるマクファージン一家にとってはそれはそれは一大偉業を 成し遂げたということになる。
マクファージン一家のギネスブックにこう記されることになる。

「2002年5月27日クリストファー・マクファージンはマニュアルを見ることなしにTVのチューニングを1つならずや4チャンネルも一気に成し遂げた」

アバディーンでロイヤルメイルの転勤通知を受け取ってから2ケ月の間。
毎日が浮草のように落着かない生活だった。
心身ともに疲れて、やっとこ落ち着く先が決まったと思ってもこうしたアキシデントに見舞われながらも本当にようやく落ち着いた。
まぁ、これから家を購入するという最終行事が残ってはいるものの。
まずはやれやれの状態だ。

表通りを出て行くとそこからはアーサーズシートが見える。
灰色灰色と小馬鹿にしていたアバディーンではあったが、ゴミのない花の街アバディーンでクリーンな生活に慣れ親しんだhirokoにはこの街は実に汚く目に映る。
黒くすすけた建物を眺めると思わず鼻の穴にティッシュを突っ込んで真っ黒になっていないか確かめてみたくなる。
勿論観光客のたむろするプリンシズストリートやロイヤルマイルは奇麗に清掃されているが、そこを一歩出るとそこには煙草の吸い殻、 ポテトチップスやチョコレートの袋、チューインガムでデコレートされた歩道、それにやたらに犬のウンチが寝そべっている。
目下専業主婦となって運動不足になったhirokoは極力散歩がてらに歩いている。
しかし徒歩圏内でお気に入りのデパート、ジョンルイスに辿り着けるのは実に有難い。
観光客でごった返しているプリンシズ・ストリートは極力避けて通りたい通りだ。
ここを歩くと決まって頭が痛くなる。ここの5倍はある大都会大阪育ちだというのにどうもこの通りは好きにはなれない。
中華食料品のデパートである「中英行」も徒歩圏内。
日本食とは殆ど縁のなかったアバディーン生活。最初はウハウハで買い込む買い込む。
新生活の食生活に日本食が食い込んでくる。
ラーメン・ライス・・・・なかなか主婦にとってはありがたい街である。

何よりもクリス君の職場が徒歩5分というロケーション。
それにアバディーンでのロイヤルメイルの勤務体制とこことではちょいと違って、アバディーンでは勤務時間が短いが週6日勤務で お休みは日曜日しかなかったのだが、ここでは勤務時間は長くなったが週休2日となり、彼は喜んでいる。
中古レコード屋もいろいろあるし何せコンサートだっていろいろある。
早速2つのコンサートのチケットを買い込んだクリス君だ。

hirokoはhirokoでテリトリー開拓が始まった。
アバディーンはコンパクトな街でシティーセンターに出向けばショッピングセンターが集まっていて、大型スーパーも街中に存在した。
つまり徒歩圏内で食料品から衣料、雑貨と何もかも揃ったものだ。しかしここでは町中にはやたら小型のスーパーやニューススタンドは目白押ししているが大型スーパーとなるとバスを利用しないといけない。
ちょいと面倒臭く感じてしまうが、馴れてしまえば何てことはない。
従来が「カメレオン」のように馴れ溶け込んでしまう質なので今はバスに乗るならOFFピーク時(9時半以降)に£1.50へとディスカウントされる1日チケットを買い、大阪市内にはびこるご老人の無料バス観光旅行の如く、バスで市内見学と楽しんでいるhirokoである。

どの街にもいいところと悪いところがある。
6年半も暮らしたアバディーンからここエジンバラに居を移して、どうしても比べてしまいこの地の嫌な所ばかりが目立つ引越し当所だったが、馴れるしかない。
ただただ寂しいのは、毎日嫌でも顔を突き合わせていたラボーン・バゲットのキッチン連中と会えないこと、ランドルの馬鹿歌が聞けない
寂しさがずしんと重たく沈んでいる。

だが、Be Positive!
よろしくね!エジンバラ!
 
 


君の友達

つい先だって借りた本を読んでいた。
作家同士のご夫婦である小池真理子さんと藤田宜永さんの「夫婦口論」である。
お二人の仲睦まじいエッセイが実に快いテンポで描かれていて、まるでその生活の様子が手に取るようにわかってとっても楽しい作品だった。
時にはウンウンとうなづきながら、夫婦というものたとえそれがインターナショナルなものでもまぁ、どこでも似たり寄ったり
なんやなぁ。などと感心していたが、おお!これは!と思うエッセイが目に留まってしまった。
「初めてのウンコ」である。
これは大いに笑ってしまった。
どんなものかというと、特に女性は好きな人、恋人など付き合いはじめて浅い間は、なかなかトイレにいけなかった。

このhirokoとて例外ではない。
生まれて初めてデートと思しきデートをした時、ドライヴ好きな彼に付き合って冷凍庫のようにガンガンにクーラーの効いた車の中、おしっこが行きたくて行きたくてたまんなくなった。
ルンルンと悦に入って運転をし続ける彼に「おしっこ行きたいんやけど・・・」とは口が裂けても言えなかった。
しんみりと話をしたり、音楽の話をしたり、冗談を言うのだが、hirokoは全くそれどころではない。
彼が尿意を催すのを待つしかない。
彼がドライヴ・インに車を止めて「トイレ行ってくるわ!」と言えばしめたもの。
「じゃぁあたしもいっとこかな?」なぁーんて(別にしたくないんやけどしゃぁーないなぁ、つきあいましょか・・・)ってな顔を繕ってトイレに行けるって寸法だった。
ところがこの男は全く尿意を催すことがなかった。
終いには「こいつ、おしっこしたくないのか?何でや?アホちゃうか?」などと段々とこの男を憎らしいと感じるようになってしまった。
ウブやったあの頃を苦く懐かしく思い出していた。

おしっこでこれなんだからウンコとなるともう大変。
狭いマンションで暮らしはじめた新婚生活。ここでご夫妻に初めての「ウンコ」が登場するという訳だ。
いつもはドタバタと歩き回る彼女にウン意が襲ってきた。
楚々とトイレに逃げ込み、晴れ晴れとした顔で出てきた彼女に向かって彼は「ウンコだろ?」と聞いたという。
彼女は照れながらも「何でわかったのよ?」と聞くと、あまりにも彼女の態度が楚々とし過ぎていたのだ。
その「ウンコだろ?」の一言で彼女は大いに救われたというなんとも微笑ましい話である。

人間長く生きていくと人は1つや2つの「ウンコ」にまつわるお話があるのではないだろうか。
hirokoにはこの「ウンコ」にまつわるお話が数多く存在する。
このご夫婦の「初めてのウンコ」を読んだ後、無性に「あたしも書きたい!」とタイプを打つ手が走るわ走るわ。

hirokoは御存知の通りスコットランドに暮らしている。
然るにトイレはどんなド田舎に行こうが洋式の便座に座るというスタイルだ。
男と女と違うところ、それは当たり前な話だが、女は大にしろ小にしろ便座に座るが男は大をするときのみ便座に座る。
女の場合、日本式の便器と違って自分の絞り出した排泄物は後ろに集められ、一気に水が流される。
後ろ向きに座ってウンコを出した後、そそくさ水を流して、パッパと手を洗ってドタバタを出てくるhirokoだ。
だからいちいち自分の今出したウンコを確認することなんてしないし、ましてやきちんと流れたかなど確認するなんてこともなかった。

ある日のことだった。
トイレに入ったクリス君がなかなか出てこない。
これは「ウンコかな?」と思っていた。
すると何度も何度も水洗の水を流す音が聞こえてくる。
何やらトイレ掃除をしているようだ。
感心感心!なかなかいい心がけではないか!
クリス君が出てきた。
「掃除してくれたの?ありがとう!」と言うと、彼はこう言った。

「君の友達が残っていてなかなか流れないんだ」
「あたしの友達?どーいうことよ!」

「ウンコだよ。ウンコ。」
「げっ!嘘やろ?ちゃぁーんと流してるでー」
「君のウンコは重たいんだ。頑固で強情で、まるで飼い主そのものだよ。重たいから流れないで残っちゃうんだよ」

hirokoはトイレに駆け込み、排水パイプをまじまじと観察した。
排水パイプはU時型になっていて排泄物は水洗の水圧に回りから押し上げられて平らなパイプに引き継がれ、一気に下水パイプを 通って下まで・・・という仕組みである。
このアバディーンのフラットのトイレの水圧事態それほど強烈なものでもないし・・・・
しかし・・・何だ?同じように寝起きを共にして、同じものを食べているのにどうしてクリス君のウンコは流れて、あたしのウンコは流れないんや?
クリス君曰く、「hirokoのウンコは重たい。」
量ったんかぁ!である。
クリス君のウンコが軽いのは「ベジタリアン」やから?。。。。
そう言えば、いつもはほぼ同じものを食べてはいるが、時折りhirokoは無性に肉が食べたくなって、肉肉肉と連続することがある。
肉を食べるとやっぱりウンコは重たくなるのだろうか。

さて、こんな疑問も何よりも、一家の主に妻の糞の後始末までさせてしまっては・・・あたしゃ飼い犬やないんやで。
それにしても仕事で疲れて帰ってきて、さぁておしっこしよ!とトイレに入って便座に向かいチャックをおろしていざ、焦点を定めるとそこには 妻の重たく強情なウンコがドテチンと寝そべっているのである。
普通の男ならきっと、「おい!自分の糞ぐらいちゃーんと後始末しろよ!」と目をつり上げて怒られても仕方の無い話である。
ところが人間が出来ていると言うか、優しいクリス君は涼しい顔をしながら、せっせとhirokoのウンコをトイレ専用のブラシで突ついたり押し込んだり粉々にしてみたり、何とか流そうと悪戦苦闘した後も平然としている。
「今度それを見付けたら言ってよね!」と恥ずかしさと照れと腹立たしさとが交じりあいながらhirokoは言うのだった。
それでもいつも用を足した後は一気に水を流してそそくさと出てくるがさつなhirokoであるので、やっぱり重たいウンコがドテチンと居残って いることが多々あったようである。
勿論自分で見つけた時にはちゃんと自分でつついたり押し込んだりしながら「なるほど・・・・」と納得しながらお掃除するのだが、自分の体内から絞り出した排泄物とは言え、結構この作業は耐え難いものがある。
立場が逆だったらhirokoは鬼のような顔をして怒るだろう・・・・
ところがクリス君ときたら、「君の友達が今日残っていたけど、もういなくなったよ」と言ってみたり、hirokoが居るにもかかわらず、 一人でお掃除しようとせっせかブラシでツンツンとこの重たいhirokoのお友達とやらをつついているクリス君の後ろ姿を見ながら、合掌!と手を合わせ、私は妻の糞の始末までしてくれるこんな優しい旦那様を持って何と幸せ者なんやろ・・・と思うと同時に(あかんわ。この男出世出来へんわ!)などと思ったりもする。

そんな光景を確か大昔にも目撃したことがあった。記憶が蘇ってきた。
hirokoが小学校の2年生あたりだったと思う。
クリス君の背中がhirokoの父、カラオケ健ちゃんの背中とだぶり、タイムスリップした。
そうなのだ。
我父も母の強情なウンコのために流れないでいる水洗トイレで悪戦苦闘をしていたのだ。
健ちゃんは明らかに怒っていた。
「こんなドでかいウンコするから、見てみぃー!流れへんやろ!一体何食ったらこんなえげつないもん出てくるねん!」と、声を大にしながらもシコシコと割り箸でつついて何とか流そうと頑張っている。
まだ幼稚園にも上がらない妹が何事ならぬ異様で緊迫した雰囲気がよほど怖かったのだろう、とんでもないことが起こったのだろうとビェービェーと泣いている。
hirokoも笑うことも出来ず、緊張しながらこのドでかい足の母親から絞り出されたドでかいウンコが無事に下水パイプへと消え去るのを祈る思いで見守っていた。
父は案の定出世はしないで定年を迎えてしまった。

そうか、ウンコが重たいのは母のせいだったのだ。
これは遺伝なのだな。
今度一度妹にそれとなく聞いてみなければなるまい。
以前彼女にあの事件を覚えているか?と聞いてみたところ、彼女は覚えていた。
だが、彼女曰く、内容こそわかんなかったけど物凄く怖かったという。
hirokoの母は顔こそ「いかりや長介」みたいなのだが、育ちのよさと上品さを売り物にしている。
だが、こんな失態をさらしてしまったのである。
健ちゃんにかかったらもうおしまいだ。
その後年、我家にお客様がいらした時に盛り上がって夫婦の暴露話に華が咲いてしまった時にはこの事件が必ず健ちゃんの口から暴露されるはめになる。
「あん時はほんまに往生しましたがな。おほほほほぉーってええ格好しとるんやけど、まぁ何食ったらあんな不気味なもん出しよるんやろなぁ。こんなんでっせ!」と、健ちゃんのいう話にはおひれとはひれが加わって、実際は大型バナナ程のサイズだった母のウンコが何とヘチマにまで誇張されてしまっている。
いくら何でも人間の肛門からヘチマは絞り出せない。
コケにされた母はケラケラ面白がって話す健ちゃんのお尻を片手でむぎゅぅーとつねりながらも、片手は口にあてがいながら、「またぁ、お父さん冗談ばっかり言うてぇー、おほほほほー」としらばこける。
ここにhirokoが登場して「嘘ちゃうで」と、父を助けてやっていた。

父とクリス君の違うところ。
それはクリス君は愚痴りもしなければ怒りもしない、ましてや他人様に暴露して妻をコケにして笑いもしない。
何と素晴らしい男なんだろう。
さて、ウンコまでさらけ出してしまったのだから、もう何も隠すものもないし、怖いものも恥ずかしいものもない。
ウンコをさらして夫婦円満なのである。

新天地のアパートへの引越しが完了した。
クリス君がトイレの水を流したら、それはそれはすごい勢いの水圧だった。
「もう君の友達に会うこともなさそうだね」と彼は言った。

もうhirokoのウンコ掃除をしなくて済む安堵感と一抹の寂しさがクリス君の背中に漂っていた。