カモメの惑星
カモメの惑星パート2
カモメのJHON君
JHON君の発情期
カモメが消えた

かもめの惑星

By Hiroko in May 1997

かぁもめぇーのすいへいさん!
かもめぇーがとんだぁ!

かもめのイメージというのは、何かほっとするような長閑さ、港そして海の自然を大 きく感じるものだ。

大阪育ちの私が始めてスコットランド旅行した時には・・・「ああ、かもめちゃん だぁ!平和やなぁ!・・・毎日かもめちゃんの声で目覚める生活してみたいなぁ!」 などと、ノーテンキなことをマジに思っていた。あれから3年後、こうしてかもめの うじょうじょ飛び交う港町アバディーンで暮らすことになった。そして、あのノーテ ンキな憧れは、とてつもなく甚だしい誤解であったことに昨年の夏嫌と言うほど気付 くのであった。

3月末日にサマータイムに突入し、どんどん日は長くなり午後の8時9時10時とな っても昼間のように明るくなる。勿論夜明けもぐんぐん早まって来る。夏が来ること は、実に待ちに待っていて、嬉しい限るではあるが、それと同時にここで登場するの が、かもめ共の存在である。これを書かずにはいられない。特に私たちが住むSPAス トリートの目の前は、病院という大きな建物が建っているが、そういった大きな建物 は、必ずといっていい程、かもめの演芸会場となっているのだ。

冬場は、奴等もさすが寒いかして、なりを潜めておとなしくしているのだが、これか ら夏場に向かって、子供がどんどん生まれ、ツアリストたちも増え、其の数は増して いきそうだ、昔「猿の惑星」って映画があったように、まさに「カモメの惑星」と化 するのである。

こいつらが、昼間に思い存分鳴けばいいものを、昼間はみなさんビーチにお出かけに なっておられる。人間さまが、さぁこれから寝るぞ!と、思う頃になって奴等は、ギ ーギー・ギャーギャー・ゲーゲーとやり始め、朝も早ようから「ケッケッケェー」と 雄たけびを上げている。カモメのカラオケ喉自慢大会か、はたまた紅白歌合戦か・・ ・アバディーン・カモメ合唱団か・・・一度カモメに変身して、参加してみないこ とには分からないが、まぁ、うるさい、やかましい。

よく聞いていると、カモメにもちゃぁーんと個性がある。それぞれトーンやキーが違 う。バスやテノールもいれば、アルトやソプラノまでいる。このソプラノの奴がたま らない。人間様はとてもこの夜通し繰り広げられるけたたましい演芸会の騒音に悩ま されている。堪り兼ねて、私はBOOTSで耳栓まで購入した位である。

ここでひと文句言ってやりたいところだが、残念ながら私はカモメ語を知らない。し かるに夏場のマクファージン家は寝不足状態に陥るのである。

こうやって、机にむかってタイプしている窓の向こうで、泳げないのか、年寄りなの か、村八分でもされたか、ビーチに行かずお留守番をしている1羽のカモメがひなた ぼっこをされているのが見える。「おい!ワシのこと書いとるんやろ!」って顔で、 こちらを睨み付けている。また、その横で、2羽のハトが申し分けなさそうに、肩身 を狭くして、縮こまりながらひなたぼっこをされている。

そうなのだ。ここアバディーンでは、カモメが天下を支配している。ハトやカラスは 、存在感が実に薄い。

さて、カモメのもたらす被害は、騒音ばかりではない。毎週火曜日と金曜日は、ゴミ の日であるが、収集前のゴミ袋たちは、無残にむしられ、中の生ゴミが引っ張り出さ れ、道路に散らかされていて、めちゃめちゃにされている。日本だったら、野良犬か 野良猫の仕業だとすぐ分かるが、ここでは野良カモメの仕業なのである。であるから して、アバディーンの野良カモメたちは、栄養満点で丸々と太っている。
「カモメ鍋 にでもして、食っちまうぞ!」と、言いたいところだ。

人様の生ゴミを無断であさり、リッチな食事を済ませれば、当然自然の摂理で、ウン チを催してくる。このウンチもまた公害の1つである。アバディーンの街を歩けば誰 しも気が付くであろうが、やたら道路や駐車や放置してある車がポツポツと、白い異 物がへばりついているのを眼にするだろう。そう!これこそが、カモメが空から投下 するウンチ爆弾である。

このウンチ、尿酸がかなりきつく、拭き取ろうものなら、車の塗装まで一緒に剥げち ゃうってしろもので、アバディーンには、このウンチを貼り付けた車がそのままの状 態で走っている。勿論、屋根や道路や窓なんかもベチョベチョ張り付いている。これ が時には、人間様に向かって投下して来るからたまったもんではない。幸いにも、私 は未だこの洗礼を受けてはいないが、クリス君は、どうした訳かよく狙われている。

「うん」がつく・・・「運がつく」と、こちらでも言うらしいが・・・・まぁ、こう やってカモメがもたらす公害は、従来のカモメの可愛いイメージから程遠く、カモメ の惑星と化しているアバディーンの住民は、奴等に支配されているのである。




かもめの惑星 パート2

By Hiroko in March 1998

3月29日を境にサマータイムに入った。 日が長く、ようやく長かった冬に終止符だと、人間様は春に向かっての明るい 希望が蘇って来る。 どうやらこれは、同じ惑星に住むかもめちゃん達も同感らしい。 「ああ、もう5時やで・・・でもまだ明るいなぁ、春やねんなぁ・・・今年は 何人子供を作ろうかなぁ・・・」と、ケッケッケェーの雄たけびも一際甲高く なってきた今日このごろである。

そんななか、昨日クリス君が今年初めての「初ウンチ爆弾」をひっさげて 帰ってきた。 以前にも書いたことがあったが、彼は本当によくターゲットにされている。 自分でも「僕は狙われているんだ!」とつぶやく。 「誰か御先祖様の1人が、生前かもめにいやがらせでもしたんとちゃうのん?」と 仏教徒のhirokoはしみじみ語る。

夕食の準備で慌ただしいキッチンに「ウンチもしたたるメガネのおじさん」クリス君 が、頭にビッチョリ、かもめちゃんのウンチをくっつけて入ってきた。 「ギャァー!今年初めての初爆弾やぁ!」と大笑い。

しかし今回のは、肩や靴にちょいとかすったという可愛いもんではなく、頭の ドまんなかを直撃、まさに命中というやつである。
「わぁー!こりゃぁすごい!何でその足でまっすぐ宝くじ買いに行かなかったんよ!」 とhirokoは責める。
「こんな頭ひっさげてお店に入れるか?」と、ふてくされながら、バスルームで 頭を洗い始めた。 「ウンチがつく」「ウンがつく」「運がつく」・・・この国においても、good luckな ことではあるが、やはりhirokoにしてみれば他人事。 自分がかかれば、ものすごく腹がたつに決まってる。

さて、この爆弾、何処で直撃されたのか聞いてみると、セント・ニコラス・センター 前の広場だと言う。 ここは、テスコやマークス&スペンサーがあり、ボン・アコード・センターへと繋がる ショッピング・アーケードの前ともあって、人々の待ち合わせや買い物客で アバディーンで最も賑やかで、一番人通りがあり、いつも込み合っている所である。 しかるに、それほどのたくさんの人々の往来があるなか、ちょいとかすったのなら ともかく、クリス君の頭のド真ん中を直撃するという、その確率たるもの、まさに 宝くじである。

キッチンで野菜を切りながらhirokoは、 「そんなもんばっか当たらないで、ちいとはもっといいもんに当たってきたら? その調子で宝くじでも当たってくれりゃぁええのに!」と、アバディーンで暮して もう2年になるが、未だかつてウンチの洗礼を受けたことのないhirokoは、再びボヤく。

「僕は狙われているんだ!」と、頭を洗い終え、さっぱりとして出てきたクリス君が 言う。
「この茶色のジャンパーがいけないのかな?ババ色してるから・・・」
hirokoは笑いながら答える。 「おっ!あそこに何かトロそうな奴がいるぞ!よぉし!ウンチ落としてやれ!ブリィーッ !」ってところやない?

しかし、さそり座のクリス君は執念深い。 「いつかあいつを捕まえて、あいつの頭に僕の特別ウンチをお見舞いしてやるぞ!」
「何さぁ、その特別ウンチって?」
「特別放屁入りだ!きっとあいつ失神するぞ!死ぬかもしんねぇーぞ!」
などと、訳のわかんないことをブツクサ言っている。 そうかと思うと、 「今度生まれ変わったら、僕は絶対かもめになるぞ!思い存分人間様に向かって ウンチ爆弾を投下してやる!」
世の中広しと言えども、生まれ変わったら「かもめ」になりたいなんて言う男も 珍しい。

この夜のかもめの宴会は、いつもであれば、合唱団が思い思いにコーラスをしている 様に聞こえていたのが、この夜は、「ヒッヒッヒィー・アホな奴!ケッケッケェー ブッヒッヒィー!」と、まるでクリス君をあざ笑っているように聞こえてきた。

おっと、お食事中の方、どうも大変失礼いたしました。





カモメのJohn君

By Hiroko in September 1998

「げっ!又来てる!」 hirokoは窓から部屋の中をじぃーっと覗っているまか不思議な珍客を 見つめながら つぶやいた。 これで彼の訪問は何と4度目なのである。

何度も以前にお話した通り、アバディーンはカモメの天下である。 このカモメ君には、クリス君もたびたびウンチ爆弾でお世話になって いる。 鳥類というものは、異犬や猫とは違って、中々コミュニケーションの 取りにくい 動物である。 インコやオウムであるならばともかく、ス
キンシップがあまりとれな いものだ。 しかし、ここアバディーンの鳩たちは、パンくずを貰うために、かな り人間に 馴れて、こびを売ってくる。

ところがカモメとなると、そうはいかない。 この鳥は実はかなり狂暴な生き物である。 特に子供が産まれた後の親カモメというのが、凄い。 まだまだ高く飛べない子カモメが道路で親を捜して「ヒーヒー・キー キー」と 泣いている。

カモメの子供をご存知だろうか? 従来のカモメのように白い色はしていないのである。 子供のカモメとは言えども、かなりどでかいし、茶色の何とも不細工 なスタイル である。 このぶっくりと肥えた茶色のへんてこりんな鳥の横をウロチョロしよ うものなら、 親カモメが超スピードで突進してくるのである。 クリス君の職場仲間の1人が、この親カモメの突進頭ずきをまともに食 らって 病院送りになっている。 しかるに、こういう変な鳥をみかけたら、なるだけ傍に近寄らない方 が無難である。

さて、カモメの場合は、どんなに餌が欲しくとも、人間様こびたりは 、 決してしてこない。 近寄ると、必ず避けて飛んでいってしまう。 人間に対する警戒心が一際強い鳥でもある。 小さな田舎の漁港街ならともかく、アバディーンは人口約???人とは 言えども スコットランド第3の都会である。 都会育ちのカモメ軍団とのコミュニケーションなどは、考えも及ばな い。 2年半のアバディーン生活で、英語も或程度馴れてきたが、まだまだ カモメ語は 未知の語学である。 30年以上もアバドニアンをやっているクリス君でさえ、未知の言語 である。

そんなある日のことだった。 我が家の食卓は窓際につけてある。 そこでいつものように夕食の真っ最中、1羽の丸々太ったカモメがこの窓際に止まって ジィーっと中の様子を伺っているのである。 とにかく二人とも驚いた。 普通なら、人間様が身動き1つしようものなら、さっさと慌てて飛び 立ってしまうものを、 こいつは結構鈍感なのか、人恋しいのか、二人が好きなのか、前世が 人間だったのか・・・
延々ずーっと私たちの様子を伺っている。 夕食の手を止めて二人もただただ驚きながら、じぃーっとお見合いを しながら、遊んでいた。
窓の外に見える病院の屋上は、カモメの宴会場となっているが、こう 真近に 野生のカモメを観察することなど、初めての経験である。 この奇妙な珍客にhirokoは早速名前をつけてやった。 カモメのJohn君である。

「ハーイ!元気?」
「こいつが、僕にウンチひっかけた奴かもしんねぇーぞ!謝りにきた のかい?」
「あんたにホレてるやない?」
「うーん・・・」
「君を飼ってやりたいのはやまやまだけど、うちには、君のようにど でかい鳥を 飼うほどの鳥籠なんてないんだよ。ごめんね。」

全く不思議な空気が流れていた。

それから、数日が経った。 驚くことに、はたまたJohn君は舞い戻ってきたのだ。 これには、全く気味悪いくらいに飛び上がって驚いていた。 最初の訪問は「偶然」という言葉で片付けることが出来るが、同じよ うな建物が 立ち並ぶSPAストリートの1つの窓を覚えていたのか・・・ 気分転換にやってきているのか・・・何か相談事でもあるのか・・・ やっぱりクリス君にホレているのか・・・ 異様な光景だ。

「ハーイ!」
「今日は何しに来たの?」
さすがのクリス君もびっくり仰天であった。

2度あることは3度ある。 ここまで来ると、背筋がぞくぞくしてしまう。 3日目には、このマクファージン家にも生き証人が出来た。 千葉からエジンバラへ英語の御勉強にやってきて、週末遊びに来てく れた「おたまちゃん」 が、目撃に加わった。

生き証人おたまちゃんの証言:

「ええ....そりゃあ、驚きましたよ...。だってカモメですよ、カモ メ.....。」

4週間という、短い期間ではあったけど、憧れの地、エジンバラにて 英語の勉強に 来た私、その、第3週めの土、日にひろこねーちゃんと、クリスにー ちゃんに逢いにアバデ ィーンを訪れた。 もちろん、これが初対面である。それまでは、散々メールで会話をし ているものの 、実際に逢う事はなかったのである。 エジンバラからのコーチがアバディーンに到着すると、お二人がニコ ニコ笑って出 迎えてくれた。 さあ、これからがねーちゃんと私のおしゃべりタイムだ。久しぶりの 日本語に狂っ たように しゃべりまくる二人...。傍らでクリスにーちゃんはあっけにとられ ていた。(よ うな気がする) ホントによくしゃべった。初対面とは思えないほど、楽しい時を過ご した。 時間がものすごく早く感じる。また、二人の生い立ちが酷似していた ものだから、 おしゃべりにも拍車がかかる。食べる時間も飲む時間も惜しむかのよ うにしゃべっ てしゃべって しゃべりまくる。....気がついたら、夜中の3時をまわっていた。続 きはまた明日 ...と、 床に就くことに...。先述のリビングに私はベッドを用意してもらって 、今日あった いろいろな事を 回想しつつ、微睡んで行ったのである。ああ...明日は何をしゃべろ うかなあ....

コツコツコツ..... コツコツコツ..... ちなみに私は恐ろしく低血圧である。特に寝起きはこの世の者とは 思えない程機 嫌が悪い。 機嫌が悪いどころか、ただでさえブサイクで人相の悪い顔が大魔人も 真っ青になる くらいに 変貌する。『...たく、っせいなあ...』しかし、ここではっと気 が付く。 そうだ、ここは自分の家ではない。ひろこねーちゃんの家だ!!! でも、その音は、明らかに頭の方からしている。『....ん!?ド アは足元のハ ズ....?』 私はゆっくりと、その音のする窓へと鋭い眼光線を向けた。 しかし、眼光線は一瞬にしてフリーズしてしまったのである。

『....え!?カモメ!???』

私はトリが大嫌いである。 あのむき出して血走った眼に、そこまでとんがらなくてもいいやんけ !!っと 言いたくなるくらいのクチバシに、堪え難い悪寒がはしるのである。 インコも十姉妹もオウムも、私にとっては嫌悪の対象なのである。 なのに、それら小鳥の類いよりも遥かにデカクて凶暴な奴が、窓がラ スを挟んでい るとはいえ、 2メートル強先に、いるのである。 それも、ただ、『いる』だけではない。
小首をかしげて、『うふ・・・』と、微笑んで(?)いるのである。 『.......ねむい...寝てしまおう...そのうちいなくなるさ...』 しかし、敵は 『そのうちいなくなる』ことはなかったのである。

私がシカとしてるとわかった奴は、さっさと行けばいいものを、 大胆にもこの私に挑戦してきたのである。眼光線を発射している時は 、例え親兄弟 でも近寄らない この、私にだ...。
コツコツコツ..... コツコツコツ....
私が奴に振り向くまで、クチバシノックを続けているのである。 『んぐぁっ!! んだよっ!!』
すると、奴は又しても 『うふ・・・』 と、小首かしげてブリブリポ ーズ。 これを数回繰り返して、ついに私は本格的にシカとを決め込んだので あった。

数時間後......

コツコツコツ... コツコツコツ... コツコツコツコツコツコツコツ コツ......
『おい、おい、ま〜だ、いるのかよお....』
コツコツコツ.... コツコツコツ... コツコツコツコツコツコツコツ コツ.....
『....でも、なんで今度は足元から音がする...ん..だ...? あっっ っ!!!!』
慌てて、ドアの方を見ると、きき〜と、小さな音と共に、申し訳無さ そうにクリス にーちゃんが立っていた.....。 
『.....おはよう、たまみ... 何か飲むかい?』
その時の私は文字どおり、飛び起きた。おそらく、宙に25センチく らいは浮かん でいたに違いない。 そして、あわてまくって謝るともに、言い訳しようと試みたのである 。 しかし、私の英語はひじょーにpoorだ。 頭の中で考える余裕なんてその時の私には全くない。 かくして、私の言い訳第一声は、
『ごめんね〜 あたし、カモメだと思ったの....』

ここで、1つ訂正...。 この時点で、私はカモメという単語は思い出していなかった。 そこで、『I thought...えーっと...you are.... 』
この後は、身ぶり手ぶりと単語のオンパレードで伝えたのである。 にーちゃんは一言、『シーギル?』
『オウ、ソーデス、ソーデス、シーギル、イエース、イエース...』
このあと、クリスにーちゃんが、ねーちゃんの元に走って報告に行っ たのは言うま でも無い。

「ええ... 間違いありません。 確かに、ここアバディーンで私はカ モメに遭遇し ました。 もちろん、30数年生きてきて、こんな事は初めての経験です。あの カモメは、一 体何しに訪ねてきたんでしょうかねえ...」

おたまちゃんの証言でした。

きっと「よぉー遠いところから、おいでましたんやねぇ・・・」って なもんで、 歓迎してでもいたのだろうか・・・ しかし、くちばしノックというアクションが加わるとは、これまた驚 いた。 全く異様な鳥である。

オスかメスかの判別が分かんないhirokoは勝手にJohn君と命名したが 、クリス君が 「もしかすると、メスでジョアンナちゃんかもしんないよなぁ・・・ 」なぁーんてことを 言う。 「それなら、なおさら、ホレてるやない???」と、からかうhiroko だった。 あれ以降、何だかいろいろカモメを見ても、「今ごろJohn君/ジョアン ナちゃんは、 どこで何をしてるんやろな?」 と、異様に気にかかるようになってしまった二人である。






John君の発情期

アバディーンは真夏日が3日も続いた。
人々はこぞってビーチへと出かける。
町の大通りや至るところにある公園や野外PUBには、今出さんといつ出せるんやってな具合の若い女の子達がここぞとばかりに二段腹のへそは出すわ、肩は出すわ、真っ白な足を出すわで、ゴロリと寝っころがり日光浴を楽しんで、男性諸君にとっては目を充分楽しませてくれていた。

あまりにもの好天気はアバディーンに限らず、スコットランド中を覆ったようで、BBCスコットランドのアナウンサーですら、ニュースを一通り読み終えた後には「ENJOY SUNSHINE!」と締めくくっていた。
皮のコートからジージャンの軽装に衣替えしたhirokoではあったが、しかしやっぱりアバディーンだ。
4日目には元の灰色に逆戻りで、しばしの夢のような真夏を終えた物悲しい秋という錯覚に陥ってしまった。

さて、人間様が肌をあらわにして露出する頃、カモメたちも忙しい。
4月から5月にかけてはカモメやハト達の発情期を迎えるアバディーンである。
いたるところでカモメやはとの二段重ねを見かけるようになる。
リビングの窓から外を眺めると決まってカモメの二段重ねである。
子孫を残すことはええこっちゃ!しっかし次から次へとバカボコ子供を産み落とすこのカモメのおかげで、SPAストリートはごみだらけになってしまうのだ。

アバディーンはUKで最も美しいごみの少ない町として知られているのに、こいつらのおかげでウンチ爆弾やひきちぎった黒のごみ袋の中からあふれ出る生ごみの惨憺たる状態はきっと観光客には目の届かないところだろう。
hirokoはこの二段重ねを見るたびに、「おめぇら、産むのはええけど、ちゃんと躾ろよ!」と言いたくなる今日この頃だ。

さて、以前にもお話したと思うが、我が家には定期的な訪問者?いや、訪問鳥がいる。
そう「カモメのjohn君」である。

久しく訪れることのなかった彼が、最近またまた我が家のリビングの窓を叩くようになった。
「おお!久しぶりじゃないか!」と、クリス君はカモメ語で再会を喜んだ。
どうも慣れてきたのか、滞在時間が長くなった。
それもそのはずである。
クリス君はリンカネーションのよしみか?パンくずを窓辺に置いたから大変である。
奴は必ずやってくるようになった。

だいたいカモメは警戒心が強い鳥なので、こんな近くで観察すること自体が艱難なことなのに、奴はじっと部屋の中をうかがい私達夫婦を観察している。
こちらも観察しようとふと彼の顔をしげしげと見ると、何とJohn君の顔の目の上が油でも塗ったのか?毛羽立っているのに気がついた。
hirokoは大笑いした。

「クリス!クリス!john君見てみ!リーゼントしとるわ!」
「おお!こいつもとうとう色気がついたのかな?」
「お年頃て訳やね。全く!」
「他の連中とは違うってとこ見せたいんやな」
「しっかし凄いね!カモメのリーゼントなんて見たことないで!」

何百何千とおびただしい数が生息しているだろうこのアバディーンのカモメの中で、これほどの特徴をもつカモメが他にいるだろうか?
これほど強烈な特徴を持っていれば町でjohn君と出くわしてもすぐに彼だと認識できるだろう。

「彼女出来たんやろね。」
「・・・・・・。」

クリス君はしばらくjohn君とおしゃべりしていたが、台所からパンを持ち出してきて、それを細かくちぎって窓際へ置いた。
ここぞとばかりにhirokoはカメラを構えてシャッターを切るが、まだまだカメラは恥ずかしいと見える。
そそくさとカメラを見ると「魂抜かれるゥー・クウェー」と言いながら?飛び去ってしまう。
オモロイ鳥である。

だが、窓辺のパンを置き去りにするjohn君ではない。
向かいの病院へと移り飛んだ彼は、じぃーっと恨めしそうにパンを眺めている。
奴は賢い。
ふと目をそらした隙に、ぱぁーっと飛んできて巧みにパンを咥えてまた病院へと戻って行く。
これを繰り返していたが、何を思ったか彼は「パンあるでぇー!クウェー!はよ来な、なくなるでぇー!クウェー!」と雄たけびをあげた。
すると1羽の小柄なカモメが奴のそばに降り立ち、ぴったりと彼に寄り添うではないか。

「おお!あれが彼女やで!きっと!」
hirokoとクリスは興奮した。

「おい!john!紹介しろよ!」とブツクサ言うが、どうも彼女は恥ずかしがりやみたいである。
絶対にこちらへは飛んではこなかった。
カモメにもお国柄が出ているのだろうか?
男性カモメは優しいみたいだ。
この彼女のためにカメラという危険を犯してまで、彼女のために我が家の窓辺へ飛んできて、パンくずを素早く拾い上げると、そそくさ彼女の待つ病院まで戻ってゆき、そのパンを彼女に与えるではないか!
これにはさすがに驚いたが、パンを彼女に差し出した彼は勝ち誇ったように、はたまた雄たけびをあげるjohn君の言葉は、

「丈夫な健康な子を産まなきゃなんねぇんだから、さぁ、食え!クウェー!」とhirokoにはそう言っているように聞こえてきた。


「なぁ、彼女が出来て、子が出来て、孫が出来て、曾孫が出来て、曾曾孫が出来て・・・・こいつら一族がみぃーんなこの窓にやってきたら大変やで!うちにはそんだけの数を養える程のパンはあれへんでぇ・・・・」
と大笑いするhirokoだったが、クリス君は急に恐ろしくなったのか、この日からパンを差し出すのはやめてしまった。






カモメが消えた

11月に入り例年どおり気温が下がってきた。
空を見上げると、重苦しく分厚い灰色の雲がかぶさり、まさしく冬の空となっている。
これからが長い冬をはたまた迎えることになった。
だが、街はクリスマス商戦が始まり、ユニオン・ストリートのクリスマスライトも準備され、明かりが灯されるのを待つだけとなっている。
渡り鳥たちは先月にそそくさと南へ向かい、飛び立ってしまっている。

何となく物悲しくも華やいだアバディーン街に異変が起きた。

何度も以前に述べたように、この港町であるアバディーンって街は「カモメの天国」だった。
春先にはキーキーギャーギャーと騒音を発し、大宴会を催し、子供が生まれどんどん数が増えていった。
時折我が家の窓に登場する「John君」そして彼女。
向かい側にはおじいちゃんカモメとおばぁちゃんカモメが仲良く寄り添っていた。
右を見ても左を見てもカモメだらけだったのだ。

ゴミの日になると大変な公害をもたらしていた。
黒いゴミ袋をこじ開け、噛みちぎり、中の生ゴミを引っ張り出す。
道路上はそのゴミの無残な姿が広がり、いたるところの朝のアバディーンの街角は散らかしっぱなしにされたゴミが散乱し、見るも無残に汚らしい街となっていたのだ。
いくら数々の賞に輝いているという花の街アバディーンもこのゴミの日の収集車がやって来るまでの道路と言う道路はゴミとカモメに埋め尽くされていた。

我が家のストリートもそれはそれはひどい状態だった。
奴らのくちばしはかなりなものだ。
いくら2重ゴミ袋で頑丈にしたといえど、へっちゃらで噛みちぎる。
前が病院と言う大きな建物がドカンと建てられているので、絶好のカモメのマンションとなっていた。
ここに住んでいれば毎夜毎夜宴会はできるわ、食事にはありつけるわなのである。

ところがである。
ある日を境に、これだけたむろしていたカモメが街中から姿を消してしまった。
驚くほどに綺麗さっぱりいなくなっちまったんである。
脚の悪い老カモメが置き去りにされるとか、ヘンコなへそ曲がりなカモメが1羽ぐらいいたってよさそうなものなのに、全く綺麗さっぱりにである。
おかげで朝からの雄たけび騒音もなく、ひっそりとした街になった。

財政難のアバディーン市が清水の舞台から飛び降りて、ついに街中に大きな黒のコンテナ形式の蓋付きゴミ箱を街中に設置したのである。
我が家の前の何とも短いストリートであるSPAストリートにも合計4つのコンテナが設置された。
かなり大きなもので、こいつならある程度の粗大ゴミだって収納できるほどのものだ。
このどでかいゴミ箱が道路に居座ることになり、いくらカモメのくちばしがすごいといえど、蓋を持ち上げるウエイトリフティング並の怪力かもめなんぞいるはずもない。
カモメ達はビーチや港に戻ったのだろうか・・・・・・
多分フィッシュマーケットのあるアバディーン港へと引越ししていったのだろう。
しっかし、あれだけ懇意にしていたJOHN君も彼女が出来たら冷たいもんである。
何のごあいさつもなしに引越ししてしまうなんて!

とにかく生ゴミのあされないかもめたちはシティー・センターを諦め、民族大移動を果たしたようだ。

いたらいたで煩く喧しい存在だったのだが、いなくなってしまうと、何となく寂しい気がする。
街が生ゴミ化せず、美しくなるのは有難いことだが、来年の市民税がどっさりとありがたい金額となって襲ってくるはずである。

さてこの蓋付きコンテナ・ゴミ箱は道路上にある。
今までは朝早く出すとカモメに食いちぎられるので、朝の早いクリス君に出してもらうわけにもいかず、hirokoがゴミ出しを担当していた。
なるべく収集車の来る直前に、バスロープをひっかけてスリッパのまんまで、たたたたたと階段を降りて、玄関のドアを開けてひょいと道路に置いていた。
つまり玄関を出る必要はなかったのである。
ところが、こいつの登場によって、「さぁ、ゴミを捨てに行くゾォー!」と、気合を入れて、靴をはいて鍵を持って玄関を出て、in Publicの状態で身構えねばならなくなってしまった。

あーあー、やっかいやなぁ。
と思っていたが、何の為に蓋があるねん?である。
いつでも出せるではないか!
好きなときに出していいのである。
こいつは有難い!
もう寒い朝にたたたたたと階段を降りていく必要はなくなったのである。
これからはゴミ出しはクリス君の担当となってしまった。
有難いことに、もう恐怖の「ウンチ爆弾」の危険もなくなり、ようやく平和な日々が過ごせるアバディーンである。